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1.国際機関の対応
2003年の食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会の報告書では、トランス脂肪酸については、心血管系を健康に保つため、食事からの摂取を極めて低く抑えるべきであり、実際にはトランス脂肪酸の摂取量は、最大でも一日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満とするよう記載されています。
国際食品規格を作成しているコーデックス委員会(Codex)は、2006年、第29回総会において、トランス脂肪酸を「共役二重結合がなく、少なくとも一つのメチレン基によって離されたトランス型の炭素-炭素二重結合がある不飽和脂肪酸の全ての幾何異性体」と定義し、「栄養表示に関するガイドライン」へのこの定義の追加を採択しました。
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2.各国の対応
デンマークでは、2004年1月1日から消費者向けに販売される製品について、油脂中のトランス脂肪酸の含有量を2%(油脂100g当たり2g未満)までとする制限が設けられています。
また、製品中に含まれる油脂中のトランス脂肪酸の含有量が1%未満の場合は「トランス脂肪酸を含まない」と表示することができるとされています。
米国では、2006年1月から加工食品の栄養成分表示において、飽和脂肪酸、コレステロールに加えてトランス脂肪酸量の表示を義務付けています。
さらに、2015年6月には、トランス脂肪酸の摂取量を削減するため、トランス脂肪酸の主要な摂取源である部分水素添加油脂(PHOs)をGRASから除外するという決定を行いました。猶予期間が経過した2018年6月以降に部分水素添加油脂を使用する場合は、食品添加物として個別に使用許可が必要になりました。
ニューヨーク市は、2006年12月から2008年7月1日までに、市内の飲食店や売店で提供される食品について部分水素添加油脂を使用した食品の制限を2008年7 月1 日までに段階的に実施する規制を制定しました。この結果、2008年11 月までに市内の飲食店の98%以上がトランス脂肪酸を含む部分水素添加油脂の使用を取りやめています。
カナダでは、一部の中小製造業を除いて、原則として2005年12月12日からの栄養成分の表示義務化の中でトランス脂肪酸も表示対象としています。
2007年5月のオーストラリア・ニュージーランド食品規制担当大臣会合では、食品供給におけるトランス脂肪酸のさらなる低減のため早急な規制は必要なく、非規制的な取り組みが適当という同レポートの結論を承認しています。この結論は、オーストラリア及びニュージーランドにおけるトランス脂肪酸の摂取量は比較的少なく、規制強化により達成され得る疾病リスク低減の全体的な規模が不明であることなどに基づくとされています。
台湾では、2008年1 月から、栄養表示の「脂肪」の項目に飽和脂肪酸及びトランス脂肪酸の表示を追加することを義務付けました。さらに、トランス脂肪酸を含まないベーカリー食品用油脂の開発委託や、ベーカリー業者に対する改善指導など、加工工程におけるトランス脂肪酸の生成量を最低レベルまで低減することを奨励するとともに、食品業界を実務面において支援することにより、業界に与える打撃を減らすことも目指しました。
一方で、消費者に対し、トランス脂肪酸及び飽和脂肪酸のみならず、油脂全体の過剰摂取が心血管疾患、肥満及びがん等の生活習慣病への罹患(りかん)率を高めることから、各脂肪酸の摂取量、食品の選択及び調理方法に注意することで、バランスの良い食習慣を確立するよう訴えています。
韓国は、2007年12 月から、栄養表示の「脂肪」の項目に、トランス脂肪酸の表示を追加することを義務付けました。
(用語解説)
GRAS:Generally Recognized As Safe(一般に安全と認められる)の頭字語。米国における食品添加物等の規制に関する制度の一部。米国では、GRAS制度により、科学的手続を経て安全であると一般的に認められるか又は一般的に使用されていた経験(1958年以前から使用)に基づき安全であると一般的に認められれば、GRASの対象となり、食品添加物としての認可を受けることなく食品への使用が可能。