発見!ご当地「油」紀行

第48回
京都府(京都市)
賀茂なすの田楽

古都で長年愛される夏の名物料理

千年以上にわたって日本の都であった京都は、懐石料理や精進料理などの食文化が発達し、豆腐、湯葉、漬物、京菓子など多くの名物を生み出しました。中でも郷土の食材として愛されているのが、京野菜と呼ばれる伝統野菜。その中に、油との相性が最高に良い野菜があるとのこと。現地に行って、取材をしてきました。

祇園地区に流れる白川沿いの風景。京都市街には歴史ある建物が数多く残る。

ユネスコ世界文化遺産に登録される賀茂別雷神社。地元の人々からは上賀茂神社の名で親しまれる。

油との相性が最高に良い野菜とは、丸なすの1種である「賀茂なす」のことでした。名前のとおり上賀茂地区の人々が大切に育ててきた野菜で、京都市が制定する「京の伝統野菜」のひとつにも選ばれています。

「京都の夏野菜を代表する存在です。夏になったら一度は賀茂なすを食べたいという京都人は多いですよ。育てるのが難しい野菜でもあります。花が咲いてから受粉して実がなるまで約20日間はかかるのですが、その間に水をやりすぎても、肥料をあげすぎてもいけないし、気温が高すぎてもよく育ちません。近年の夏は高温化しているから、余計に難しいです」と農家の方。

賀茂なすは1個の大きさが約300g、大きいもので450g前後にもなるとのこと。丸々とした形、つや、美しい紫色の三拍子が求められ、すべての条件を満たす賀茂なすを作るのはベテラン農家でも大変だと教えてくれました。

賀茂なすの花。

たわわに実る賀茂なす。

油と田楽味噌との相性が最高に良い賀茂なす

さて、肝心の食べ方はいかがでしょうか?
「油との相性が抜群です。みずみずしく、肉質がとても緻密なので油を吸い過ぎず、素揚げするとトロッとした食感に仕上がります」と、教えてくれたのは飲食店の方。
おすすめの食べ方は田楽とのことで、実際に作るところを見せていただきました。

賀茂なすは皮の食感がしっかりしているのも特徴のひとつ。食べやすくするため、ピーラーで縞(しま)にむく。

2㎝幅程度の輪切りにする。

揚がりやすくするため、串などで数か所穴を開けておく。

なすの水気をよくふき取ってから、160度の油できつね色になるまで揚げる。食欲を誘う香りが立ち上ってくる。

揚がったら、金ざるなどに数分置いて軽く油を切る。

白味噌と酒、砂糖、卵黄を鍋に入れて火にかけ、ほどよく水分を飛ばした田楽みそを、揚げた賀茂なすの上にのせ、青ゆずの皮をおろしたものをふって、賀茂なすの田楽が完成。

食べてみるととろける食感の絶妙な柔らかさに驚きます。揚げ時間は8~9分ほどでしたが、じっくり揚げても柔らかくなりすぎず、弾力のあるむっちりとした食感が楽しめます。農家さんが言われるとおり、油との相性の良さを実感しました。油を吸い過ぎず、コクや香ばしさに満ちた揚げた賀茂なすは、田楽味噌との相性がまた素晴らしく、青ゆずのさわやかな香りが全体を引き締めていました。

賀茂なすの最盛期は6月からお盆までとのことでしたが、長いものだと10月頃まで出回ることも。現在では上賀茂地区のほか静原地区、京都府内の亀岡市、南丹市、京丹後市でも栽培されているようです。是非、揚げた賀茂なすのおいしさを体験してみてください。

(23.9.26)