発見!ご当地「油」紀行
第33回 愛知県(蒲郡市)油菓子
ほんのり甘くてほっとする
地域限定 ひな祭りの味
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複合型マリンリゾート施設「ラグーナ蒲郡」。アミューズメントパーク、マリーナ、ショッピングモール等があり、「海のまち」蒲郡を象徴する施設となっています。
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島全体が天然記念物に指定されている「竹島」。長さ387メートルの橋で陸地と結ばれ、島の中央部には日本七弁財天の一つである「八百富神社」があります。
本州のほぼ中央部、知多半島と渥美半島の間に挟まれたところに位置する愛知県蒲郡市。豊かな自然に恵まれた沿岸部は三河湾国定公園に指定されており、市内には4つの温泉地を持つことから、県内屈指の観光地として知られています。また、暖かな気候を生かしたフルーツ栽培も盛んで、「蒲郡みかん」は全国にその名を轟かせています。そんな蒲郡市の西部、形原地区にひな祭りのときに食べられる地域限定のお菓子があると聞き、早速訪ねてみました。
歴史は200年以上
その美味しさと お振る舞いの習慣を次世代にも
形原地区で食べられているそのお菓子とは、小麦粉に砂糖・卵を混ぜて練った生地を油で揚げた、ドーナツを硬くしたような揚げ菓子、「油菓子」。起源は古く200年以上前に遡り、その昔は地元のお殿様の好物だったという言い伝えが残るほど。また、保存性に優れていることから、地元の漁師が海に出る際に一斗缶に詰めて持っていったりしたこともあるそうです。
「この辺りの家庭ではおひな様に供え、人形を見に来たお客様に油菓子をお下がりとして振る舞う習慣があります。中でも子どもたちは喜ぶんですよ。」と、地元の婦人団体「形原レディースサークル」の代表の方。もともとは家庭での習慣ですが、現在ではこれを商店街の活性化にも活用。2月末~4月初頭まで「形原ひな祭りロード」として店の中にひな人形を飾り、その内の数日間、訪れたお客様に「油菓子」を振る舞うイベントを開催しています。「油菓子もお振る舞いの習慣も、この地域独特のもの。今の若い人はあまりやらないかもしれないけれど、受け継いでいくことが重要だと思うの。」
場所は変われど、油菓子のお振る舞いは、今も子どもたちの楽しく美味しい記憶として刻み込まれているようです。
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商店街の軒先を彩るひな人形。この辺りでは形原神社の例大祭が行われる4月の第1日曜日まで飾っておくのだそうです。
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「形原ひな祭りロード」のメインイベント「ちご姫道中」では着物を着飾った女の子たちが商店街の各店舗をまわり、「油菓子」のお振る舞いを受けます。<写真提供:形原レディースサークル>
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複数の店舗で売られるようになった油菓子。地元を離れた子どもたちに送る親御さんも多いそうです。
作り方は家庭によって様々
素朴ながらも時代と共に進化
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5mm程の厚さに伸ばしたら、適当な大きさに切り、中央に切り込みを入れてねじっていきます。
商店街の菓子店で油菓子を作るところを見せてもらいました。もともと家庭のお菓子であるため、作り方は家庭(店舗)によって異なります。地元のお母さんたちは、時々作り方の情報交換をするけれど、いくら聞いてもよその家の味は再現できないといいます。「昔は硬いものが多かったんだけど、最近は、バリエーションが増えてきて、柔らか目のものが多くなったわね。」と菓子店の女将さん。ここのお店では、比較的柔らか目で、ねじった形の黒ごま入りのものを販売しています。まず、小麦粉、砂糖、卵、黒ごまを混ぜて練り合わせ、生地がまとまったら、一晩寝かせます。その生地に打ち粉をして伸ばし、包丁でひと口大に切ったら、成形していきます。
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170℃の油でじっくりと揚げていきます。
170℃の油で両面がきつね色になるまでひっくり返しながら揚げていきます。揚げあがったら、油を切り、粗熱をとったら出来上がりです。
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プレーン、黒ごま入り、はちみつ入り、あおさ入り等、味や食感、形は家庭によって様々です。
揚げたては外はサクッ、中はホロホロと柔らかいのですが、日が経つにつれ、歯応えが出てきます。素朴な生地の味に黒ごまの香りが広がるシンプルな味のため、全く飽きが来ません。形原の女将さんたちが「この季節になると、ついつい食べ過ぎちゃって、太りそう。」と言っていた理由が分かる気がしました。
海辺の街のお母さんたちが作る桃の節句のお菓子は、食べた人誰もがほっとするようなやさしい味がしました。
(14.02.24)
- 問合せは
- 形原レディースサークル
0533-57-2446