発見!ご当地「油」紀行
第28回 佐賀県(鹿島市)クチゾコの唐揚げ
古くから親しまれてきた有明の恵み“クチゾコ”
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道の駅鹿島から眺めた有明海。潮が引けば7km先まで干潟となります。
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有明海で行われる干潟の祭典“ガタリンピック”。
ムツゴロウやワラスボといったユニークな海の幸で知られる九州の有明海。その広さはおよそ1700km2で、東京湾と同じくらいの面積をもつ内海です。干満の差は最大6mにもおよび、干潮時には広大な干潟が浮かび上がります。
この干潟を舞台に繰り広げられるイベントが“鹿島ガタリンピック”。毎年5月下旬~6月上旬の大潮の日、全国から集まった人たちが“楽しい泥試合”に興じます。開催は佐賀県鹿島市。江戸時代は鹿島鍋島藩の城下町として栄え、また長崎街道の宿場町として多くの人が行き交いました。
この鹿島で郷土食として昔から親しまれてきたのがクチゾコ料理です。
“クチゾコ”とはシタビラメのこと
いまも日常のおかずとして食卓に
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クチゾコは有明海を代表する魚の一つ。<写真提供:鹿島市>
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昔からの面影を留める酒蔵通りに立つ有明料理の店。大きな蔵が店舗となっています。
鹿島市内には有明海で獲れた干潟ならではの魚介類を使った“有明海料理”を提供する郷土料理店があります。その中の一軒を訪ねてみました。今回お話をうかがった料理店のスタッフの方はこの土地で生まれ育った、有明海の幸に関するプロ。
「この地方ではクチゾコといいますね。」 クチゾコとはシタビラメのこと。ウシノシタ科に属し、北海道南部から九州まで広く日本全国の沿岸にすむ底魚です。和歌山や愛知ではアカウシノシタ、岡山や香川ではゲタ、有明海沿岸ではデンベエ、クツゾコ、クチゾコなど各地各様の呼び名があります。名前の由来はその形が靴底に似ていることから。年間を通して獲れる魚ですが旬は夏。町の魚屋さんのみならず、道の駅鹿島の売店でも販売されており、クチゾコがこの地の人々に馴染み深い魚であることがうかがい知れます。
体長は25~30cmほど。肉は白身で味は淡白。クセがなくどんな料理にも向いています。西洋料理ではムニエル、スープなどの食材によく用いられますが、ここ有明海では煮付けやフライ、唐揚げでいただきます。小さいものは一匹のまま、大きなものは2つか3つに切って料理します。
大きな1匹ものはおもてなしに
淡白なので下味にひと工夫
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塩・コショウをしたクチゾコに醤油・酒・豆板醤などを合わせたオリジナルのタレを塗ります。
「大きくて立派なクチゾコが手に入りましたよ」とスタッフの方。昔は大きなクチゾコは尾頭付きでもてなし料理に饗応されたといいます。
今回は、この大きなクチゾコを唐揚げにしていただきました。内臓を取り除き、中骨とエンガワに添って包丁で切りこみを入れます。こうしておくと揚げたとき身離れがよく、カラリと口当たりよくいただけるそうです。両面に軽く塩・コショウした後、醤油・酒・豆板醤などを合わせたタレを刷毛で塗ります。「クチゾコは淡白な白身ですからね。下味をつけるんです。下味は感じるほどではないけれど、することでコクがでるんですよ。」とのこと。有明の幸を知り尽した方の、また有明の郷土料理店ならではの技がここにあります。
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中温の油で時間をかけて揚げていきます。
唐揚げに用いる粉は片栗粉とコーンスターチをブレンド。パリっとした仕上がりになります。まんべんなく粉をまぶしたら中温の油へそっと投入。揚げ時間は片面3、4分ほど。クチゾコが浮いてくれば揚がった証しです。
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カラリと揚がったクチゾコの唐揚げ。好みでレモンを絞り、薄めの出汁醤油でいただきます。
箸をつければ中骨に沿って身がきれいにはがれます。エンガワ部分はそのまま骨ごといただけます。味はカレイの唐揚げに似ていますが、カレイよりクセがありません。この淡白さが煮付けからフライまでどんな料理にも向くクチゾコの持ち味なのかも知れません。
豊饒の海・有明海。この内海は昔から沿岸の人々に豊かな恵みをもたらし、有明独自の食文化を形成しました。クチゾコの唐揚げもまたこの地方の人々のソウルフードの一つとして残っていくことでしょう。
(13.4.19)
- 問合せは
- 鹿島市役所商工観光課 電話0954-63-3412(直通)
https://www.city.saga-kashima.lg.jp/main/4047.html?sec=15 - 価格
- クチゾコの唐揚げ(一皿)1000~1500円 クチゾコ鮮魚(1パック)800~1000円くらい