発見!ご当地「油」紀行

第27回 香川県 まんばのけんちゃん

人の名前?!いやいや、香川に根付く「おふくろの味」

1908年に小豆島に入ってきたオリーブ。現在、当時の原木はありませんが、原木からの挿し木が「小豆島オリーブ園」に残っています。

1908年に小豆島に入ってきたオリーブ。現在、当時の原木はありませんが、原木からの挿し木が「小豆島オリーブ園」に残っています。

高松港を望む現代アートの作品「Liminal air -core-」。見る角度や時間、状況によって多様な表情を見せます。

高松港を望む現代アートの作品「Liminal air -core-」。見る角度や時間、状況によって多様な表情を見せます。

四国の北東部と、瀬戸内海に浮かぶ島々からなる香川県。「うどん県」としてその名を全国に轟かせているほか、日本で随一のオリーブ産地である小豆島を擁することでも知られています。また、2013年は3年ぶりに春、夏、秋の3回に分けて現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」が瀬戸内海の島々や高松などを舞台に開催され、大勢のファンが訪れることが期待されています。
そんな香川県に、「まんばのけんちゃん」と呼ばれる郷土料理があると聞きました。人の愛称とも聞き間違えてしまいそうなこの料理、香川県では誰もが一度は食べたことのある「おふくろの味」だそうです。一体、どんな料理なのでしょう?さっそく訪ねてみました。

冬場が旬の葉野菜の王様
甘く、濃厚で柔らか

「まんば」とは、三池高菜という野菜の一種、そして「けんちゃん」は豆腐と野菜を油で炒めた精進料理の流れを組む「けんちん」料理が語源ともいわれており、「まんばのけんちゃん」は、高菜を豆腐や油揚げと一緒に炒め煮にした料理のこと。
まんばは冬が旬の野菜。葉が大きく育つと、株ごと収穫せずに外側の大きな葉から手で一枚一枚収穫し、中央部の小さな葉は残しておくそうです。中央部の葉がまた大きくなったら、再び同じ要領で収穫します。一つの株から何回も収穫できるので「まんば(万葉)」と言われるようになったそうです。「12月の収穫し始めのころは、あまり美味しくないんですよ。何度も霜をかぶって、溶けて・・・を繰り返すと、甘くなるし、柔らかくなって、けんちゃんにして食べると、とろけるようになるんです。それでいて、葉の味がしっかりしてるので、葉野菜の王様だと思うんですよ。」と、山間にあるまんば農家の方。現在は、平野部の農家でも栽培しているそうですが、寒さの厳しい山間部で採れたものの方が、甘みが強くなるそうです。
高菜は、本来とてもあくの強い野菜です。西日本の広い地域で食べられていますが、そのあくの強さゆえ、九州など多くの地域では漬物で食べられています。香川でも、以前は「けんちゃん」にする場合、一晩水にさらしてあく抜きをしていたそうですが、現在は品種改良が進み、長時間あく抜きをする必要がなくなったのだそうです。

山間の畑で育つまんば。寒さで葉が縮み、紫色になると、食べ頃の証です。

山間の畑で育つまんば。寒さで葉が縮み、紫色になると、食べ頃の証です。

外側の葉から一枚一枚手で収穫されたまんばの葉。一株から何度も収穫できることから、県の西部では「ひゃっか(百花)」とも呼ぶそうです。

外側の葉から一枚一枚手で収穫されたまんばの葉。一株から何度も収穫できることから、県の西部では「ひゃっか(百花)」とも呼ぶそうです。

数枚ずつ束にして、出荷されていきます。県内の多くのスーパーの他、岡山県の沿岸部でも一部流通しているそうです。

数枚ずつ束にして、出荷されていきます。県内の多くのスーパーの他、岡山県の沿岸部でも一部流通しているそうです。

作り方は家庭によって千差万別 素朴な味付けで、まんばの旨みを味わう

湯がいたまんばは、さっと水にくぐらせてあくを抜きます。今でも市内の古くからの八百屋では、湯がいて水にさらした状態のまんばを売っているそうです。

湯がいたまんばは、さっと水にくぐらせてあくを抜きます。今でも市内の古くからの八百屋では、湯がいて水にさらした状態のまんばを売っているそうです。

高松の市街地にある、さぬきのお惣菜を出すお店を訪ねてみました。こちらのお店では一年中「まんばのけんちゃん」をいただくことができます。「もともと家庭料理なので、地元の方より、観光客の方に人気のあるメニューなんですよ」とお店のご主人。用いる具材や味付け方法は家庭によって様々。こちらのお店は素材の味を生かすように調理するのがモットーで、なるべくシンプルな味付けを心掛けているそうです。

まんばと豆腐、調味料、だし汁を入れて煮つけていきます。まんばのみを予めサラダ油やごま油で炒めてから煮る家庭もあるそうです。

まんばと豆腐、調味料、だし汁を入れて煮つけていきます。まんばのみを予めサラダ油やごま油で炒めてから煮る家庭もあるそうです。

まんばを湯がいたら、さっと水にくぐらせてあくを抜き、一口大に切ります。水気を軽くしぼったら、一口大に切った豆腐、砂糖、醤油、サラダ油と、いりこ、昆布、鰹節、椎茸でとっただし汁を加え、火にかけ5~6分程煮つけていきます。

 
まんばと豆腐、調味料、だし汁を入れて煮つけていきます。まんばのみを予めサラダ油やごま油で炒めてから煮る家庭もあるそうです。

素朴な味付けの一皿は、ご飯のお供にも、お酒の肴としても良く合います。

「もっと長く煮つける家庭が多いと思うんですが、茎の食感を残すために、短めにしているんです」とお店のご主人。
器に盛りつけたら、完成です。まんばの鮮やかな緑に豆腐の白が映え、コントラストが美しい一品となりました。豆腐が雪の花のように見えることから、県の西部では「けんちゃん」ではなく「せっか(雪花)」と呼ばれているそうです。一口食べてみると、まんばに染み込んだだし汁の旨みを感じた後に、まんば自体の独特の味と、茎のしゃきしゃきとした食感を楽しむことができました。
香川県に昔から伝わる素朴な郷土料理は、他県の人をもほっとさせるような、お袋の味でした。

(13.02.19)

問合せは
香川県観光協会 電話 087-832-3377
http://www.my-kagawa.jp/