発見!ご当地「油」紀行

第19回 石川県(金沢市)ゴリの唐揚げ

小さな川魚“ゴリ”に風雅な滋味を見た
加賀百万石が育んだ洗練の食文化

兼六園は江戸時代の代表的な回遊林泉式庭園。第2次大戦の戦火を逃れた金沢は、金沢城跡や兼六園、武家屋敷跡など多くの史跡が残り藩政時代に誘ってくれます。

兼六園は江戸時代の代表的な回遊林泉式庭園。第2次大戦の戦火を逃れた金沢は、金沢城跡や兼六園、武家屋敷跡など多くの史跡が残り藩政時代に誘ってくれます。

近江商人が金沢にやって来たとき開いたといわれる近江町市場。180軒もの店をもつ大きな市場は市民の台所、また観光客の人気ショッピングスポットとしての役目を果たしています。

近江商人が金沢にやって来たとき開いたといわれる近江町市場。180軒もの店をもつ大きな市場は市民の台所、また観光客の人気ショッピングスポットとしての役目を果たしています。

天正11年(1583)、前田利家公は金沢城に入ります。加賀前田藩のスタートです。以来300年、加賀前田藩は百万石といわれる繁栄を謳歌することになりました。 “武”より“文”を重んじた政策は、友禅染・金箔・漆器・陶磁器などの工芸を育み、茶道・能楽・料理などの文化に華麗な世界を実現させました。

食の世界においても、料理人たちは種類豊富な魚介類、加賀野菜、白山山麓の水と米などの恵みを活用し、風土に根ざした加賀料理を確立しました。その中でも有名な金沢料理の一つが“ゴリ料理”です。ゴリという小さな川魚を使った白味噌仕立てのお椀や佃煮、唐揚げ。金沢に来たら一度はいただきたい味。そんなゴリ料理の中から、今回は唐揚げにスポットを当ててみました。

“ゴリ”が獲れたのは市内を流れる川
犀川(さいがわ)と浅野川が名物を育みました

金沢市街の南部を流れる犀川。文豪室生犀星が「うつくしき川は流れたり そのほとりに我は住みぬ…」と表しました。

金沢市街の南部を流れる犀川。文豪室生犀星が「うつくしき川は流れたり そのほとりに我は住みぬ…」と表しました。

犀川と並び金沢市街を流れる浅野川。上流の湯涌(ゆわく)温泉あたりから流れ下り、幾多の橋をくぐって河北潟に注ぎます。

犀川と並び金沢市街を流れる浅野川。上流の湯涌(ゆわく)温泉あたりから流れ下り、幾多の橋をくぐって河北潟に注ぎます。

金沢市には犀川と浅野川という2本の河川が流れています。この川では江戸時代から川魚漁が行われてきました。そのひとつが“ゴリ漁”です。ゴリとは清流を好む川魚で、カジカのこと。日本全土に生息するため各地でいろいろな名称がありますが、金沢での呼び名がゴリです。形はハゼに似ていて体長は7~15cm。胸びれが吸盤のように発達しており、流れの中で岩に身体をくっつけて休みます。漢字で「石伏魚」とか「鮴」と書きますが、これはこのような習性からできた文字です。

19世紀中頃に作られた『金沢城下図屏風』(石川県立歴史博物館所蔵)には、犀川でのゴリ漁の様子が見て取れます。4人の人物が二組に分かれ、一組は竹で編んだ塵取りのような漁具を持ち、もう一組は“ゴリ押し板”と呼ばれた取っ手をつけた板で川底をさらっています。岩に吸いつくようにしているゴリを板で無理やり離して竹で編んだ籠“ブッタイ”で捕えるのです。強引に事を行うことを“ゴリ押し”といいますが、語源は一説にこの漁法に由来するといわれています。

ゴリ漁は昭和の初期まで犀川、浅野川で日常的に行われていました。しかし河川環境などの変化に伴いゴリが獲れなくなり漁は行われなくなりました。そのためゴリは“マゴリ”と呼ばれ大変貴重な食材となってしまいました。そして現在では金沢市の北部にある河北潟で獲れるハゼ科の魚が、本来のゴリに変わって“ウキゴリ”として賞味されるように変わってきたのです。

ゴリは姿形はグロテスクですが味は美味。陶芸家であり美食家でもあったかの北大路魯山人はゴリを愛でた一人です。また、最近までゴリ料理を主体にする割烹もありました。こうした料理人たちの思いが重なって、この小さな川魚は金沢の郷土料理の顔に育ったのです。

犀川源流で獲ったマゴリを唐揚げに
小さな川魚は大きな旨さを宿しています

ウッディな洒落た店内。窓からは浅野川の流れが望めます。

ウッディな洒落た店内。窓からは浅野川の流れが望めます。

金沢駅から浅野川に沿ってさかのぼることおよそ6km。市街地の喧騒を離れた高台に季節料理の店があります。春の山菜、夏の鮎、秋の茸、冬の猪など金沢の自然の恵みが季節に応じて楽しめる料理店で、四季ごとに訪れるリピーターも多いといいます。

体長12、3cmのみごとなゴリ。犀川源流でご主人が獲った天然ものです。

体長12、3cmのみごとなゴリ。犀川源流でご主人が獲った天然ものです。

唐揚げ粉をまぶしたゴリを中温の油で揚げます。

唐揚げ粉をまぶしたゴリを中温の油で揚げます。

「地元の食材を自分の手で季節ごとに収穫して提供させていただいています。だから定休日の方が食材獲りで忙しいんですよ」と笑いながらおっしゃるご主人。“ゴリ”は市街の犀川・浅野川ではまったく獲れないため、「犀川の上流、二又新町に犀川ダムがあります。ダム湖をさかのぼって獲りに行くんです」といいます。箱メガネを使い川底を覗いて、一匹ずつタモ網ですくうそうですが、その労苦は並大抵ではありません。しかしご主人のこの漁によって店では“本物のゴリ”が味わえるのです。

油を高温にし、ゴリを二度揚げします。

油を高温にし、ゴリを二度揚げします。

金沢の郷土料理“ゴリの唐揚げ”の完成。清流を受け止め泳ぐ様子が表現されています。

金沢の郷土料理“ゴリの唐揚げ”の完成。清流を受け止め泳ぐ様子が表現されています。

早速ゴリの唐揚げを作っていただきました。
「まずは氷をたっぷりと入れた冷たい水でゴリを仮死状態にしておくんです。」 ゴリは死ぬと味が落ちるため生きたままの料理が鉄則です。仮死状態のゴリに唐揚げ粉をまぶし、中温の油で揚げます。ヒレが大きく開き、まるで川を泳ぐかのような姿に仕上がります。油の温度を高めに変え、もう一度揚げます。これでからっと香ばしく揚がり、頭からぱりぱりといただけるようになります。揚がったゴリを清流を泳いでいるように盛りつければ完成です。

ゴリは旨味をもっており、その味はオコゼやカサゴの唐揚げに近いといわれています。また、唐揚げのほか白味噌仕立てのお椀や佃煮などにも調理され、現在では金沢の古を偲ぶ風趣ある料理となっています。

(11.10.17)

観光のお問合せは
金沢市観光協会 電話076-232-5555
https://www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp/index.html
価格
1人前1000~1500円
金沢市へのACCESS
電車:JR北陸本線金沢駅、または北陸鉄道浅野川線北鉄金沢駅下車
車:北陸自動車道金沢東ICから金沢バイパス、県道200号、国道159号など経由で約5km。または金沢西ICから国道8号、県道195号など経由で約5km