発見!ご当地「油」紀行
第18回 山梨県(上野原市)せいだのたまじ
長寿の里で知られる棡原(ゆずりはら)に
いまも伝わる郷土の日常食
東京都心から西へおよそ60km。海抜1312mの権現山の麓に位置し、鶴川渓谷の河岸段丘に家や畑が点在する集落。ここが山梨県上野原市の北部にある棡原の地です。ひと昔前まで人々は畑作、養蚕、山仕事で生計を立てていました。現在は交通網が整備され車社会となったため、かつてのような暮らしは失われつつありますが、それでも深い山懐に抱かれ、ヤマメやアユ釣りが楽しめる清流のあるロケーションは変わりません。
そして棡原を何よりも有名にしたのが“長寿村”でした。食生活では雑穀と芋と野菜がその秘密といわれます。伝統的な棡原の食から“せいだのたまじ”という料理をご紹介します。
昭和43年、山梨の小さな村・棡原は
“長寿村”として全国に知られました
もう40年以上も前のことです。東北大学名誉教授・近藤正二博士と甲府市の医師・古守豊甫博士により、棡原は全国でも珍しい、夫婦揃った長寿村であると報告がなされました。両博士は過去30年以上にわたって全国990の町村を実地調査し、長生きの研究を集大成しました。
近藤博士は長寿の要因として「食・動・心」を挙げています。棡原は水田がないため、きびやあわ、そば、麦、芋類が主食となります。これに野菜、山菜、川魚が添えられます。素朴な「食」です。また家や畑が急な傾斜地にあるため、日常的に坂道を歩くので足腰が鍛えられます。そして畑の作業や家事などは家族全員の協力が必要となります。こうした「動」と「心」が「食」とあいまって長寿の要因となっていると結論づけたのでした。
棡原では現在も伝統的な郷土食がいただけます。地粉のうどんやそば、きびめし、こんにゃく、川魚などですが、中でも特徴的な郷土料理が“せいだのたまじ”です。この難解(!?)なネーミングの料理は何かというと、小粒のじゃがいもの味噌煮のことなのです。
江戸時代後期、甲府の代官であった中井清太夫が飢饉対策としてじゃがいもを九州から取り寄せて栽培させたと伝えられており、これによって飢饉の苦境を乗り切ったといわれます。それゆえ棡原ではじゃがいものことを代官・清太夫に感謝して“清太夫芋”と呼び、のちに“せいだ”となったのです。中井清太夫は“芋大明神”として祀られ、市内の龍泉寺には碑が残されています。
また小粒のじゃがいものことを“たまじ”と呼びました。「せいだのたまじに使うじゃがいもは小粒の種類で富士種といいます。せいだのたまじは小さないもでも無駄にせず食べるという、生活の知恵から生まれた郷土料理なのです」と上野原市経済課商工観光担当の方。
“せいだのたまじ”の調理のコツは
皮を剥かないじゃがいもと強火
“せいだのたまじ”の作り方を見せていただきました。
使うじゃがいもはもちろん小粒のもの。皮は剥かず一粒一粒きれいに水洗いします。そのあと少量のサラダ油で数分間炒めます。炒め終わったじゃがいもに、ひたひたより多めに水を注ぎます。そこに味噌と砂糖を加えます。仕込みはこれだけ。あとは煮ていくだけです。
「調理のコツはずっと強火で。煮っころがしというより、煮詰めていく料理なんですね」と調理担当の方。煮始めて小一時間も立つと、煮汁は泡立ち、じゃがいもの高さの半量くらいになります。これをさらに煮詰めていきます。
ここで1日目の作業は終了。翌朝もう一度火入れをします。これによって煮汁は照りが出てべっこう色に輝き、じゃがいもにまとわりつきます。さらに味噌と砂糖は甘辛くコクのある野趣に富んだ味に変わるのです。
“せいだのたまじ”はふるさと長寿館の食堂で単品料理として提供しているほか、定食の一品としても添えて出されます。またみやげとして持ち帰りもできます。
長寿村として全国に名を馳せた棡原。郷土の伝統的な食事は今日のような多彩な食に比べ大変素朴です。健康を考えると、地場の産物や郷土料理を見直すことが大切…そう感じさせるひと品でした。
(11.8.22)
- 問合せは
- 上野原市経済課商工観光担当 電話0554-62-3111(代表)
http://www.city.uenohara.yamanashi.jp/ - 価格
- せいだのたまじ(一皿)300円 みやげ(1パック10個前後)300円
- 上野原市へのACCESS
- 電車:JR中央本線上野原駅下車。ふるさと長寿館へは上野原駅から富士急山梨バス飯尾行きで約20分、神戸(ごうどう)下車、徒歩2分
車:中央自動車道上野原ICから県道33号で約6km