発見!ご当地「油」紀行
第10回 栃木県(佐野市)いもフライ
旧街道にたたずむ商家と現代を映すアウトレット
佐野の新旧文化の中で息づく庶民の郷土食
栃木県南部に位置する佐野市は、平成17年に旧佐野市・田沼町・葛生町の1市2町が合併して生まれました。佐野の地名は平安時代の荘園名に見られるほど古く、江戸時代には、徳川三代将軍家光も参拝したといわれる佐野厄よけ大師があります。また平成15年には郊外に佐野プレミアムアウトレットが誕生し、佐野市は古くて新しい街に変貌しました。こうした佐野市に“いもフライ”という郷土食があります。
始まりは紡績工場で働く女工さんのおやつ。
気軽に食べられるファストフードでした
“いもフライ”とは蒸したジャガイモをカットし、串に刺してフライの衣を付けて油で揚げた、いわばジャガイモの串揚げのこと。揚げあがった“いもフライ”には特製ソースをかけて、アツアツをいただきます。この“いもフライ”、佐野の人たちにとってあまりに日常的なので、日本全国どこにでもある食べ物だと思っていた市民も多かったそうです。しかし実際には全国区の食べ物ではなく、北関東の一部の地域に見られる郷土食だったのです。
佐野には8年前に「いもフライの会」が発足しました。事務局の方にその発祥を伺いました。「この一帯は、かつて繊維産業で栄えていました。戦後の復興期に、工場に勤める女工さんが、仕事の手を休めずに片手でおやつをとったのが始まりでないでしょうか。それが一般の家庭に浸透しました。リヤカーに串に刺したジャガイモと油をのせて、注文があればその場で揚げて販売したといいます」。
ジャガイモという良質なデンプン質と、脂質の補給ができる揚げ油、味のアクセントとなるソース、食べるのに手軽な串刺し…栄養満点のファストフードです。揚げたては昔もきっとおいしかったに違いありません。
「いもフライの会」の会員は、現在25店を数えます。地道な活動を続けてきた結果、佐野の“いもフライ”は徐々に人の知る所となり、「買える店、食べられるところを教えて」の要望にこたえて『佐野名物 いもフライ』のマップが作成されました。佐野市内の店の位置を示すマップと会員店のデータを表記。発行部数は通算で20万部といいますから人気のほどが伺えます。
「どこの家庭でも手軽に揚げることのできる料理ですが、ぜひ本場佐野へ食べに来てほしいですね」と「いもフライの会」の事務局。
蒸したジャガイモを冷蔵庫で一晩。
パン粉とソースもブレンドで
家庭でも簡単にできそうな“いもフライ”ですが、お店ではどのように作っているのでしょう?
市街地の喧騒を離れた閑静な住宅街に建つ一軒のお店を訪ねました。創業して15年、店を切り盛りするのは女性店主。
「ジャガイモを蒸しますでしょ。熱いうちに皮をむいて、それから冷蔵庫で一晩寝かせるんです」。こうすることでジャガイモが崩れずキチンと串に刺せるといいます。
串にジャガイモを4片刺したら、水で溶いた小麦粉に通し、パン粉付けをします。「パン粉は3種類をブレンドして使っています」。揚げあがった時の香り、色合い、味がよいからとのこと。
それと「熱い油で揚げちゃダメ。衣だけすぐ焦げてしまうから」。なるほど中温でじっくりと揚げた“いもフライ”は、衣がまさにキツネ色。ジャガイモはほっくりと中まで熱くなっていました。仕上げは特製ソースです。地元メーカーのソースを2種類ブレンドして、串ごとざぶりと漬けて出来上がり。
では“いもフライ”はどんな時に食べられるのでしょう。
「まず“ごじはん”ですね」。ごじはん??? ごじはんとはこの辺りの言葉で間食・おやつのことだそうです。「それからビールのつまみ。学童野球や会社の野球部の打ち上げ、差し入れ。これは大量に買って行かれます。それから職場の3時休憩のおやつ。ソースをたっぷり付けてご飯のおかずにしているという人もいますよ」。これだけ日常的に親しまれている“いもフライ”はまさに佐野の郷土食。
この“いもフライ”、ご家庭でも簡単に作ることができます。ほっくりとしたジャガイモの食感と衣の香ばしさがマッチしています。
ご当地の味を是非、ご家庭で試してみてはいかがでしょう。
レシピはこちらです。⇒ いもフライレシピ
(09.12.10)
- 問合せは
- 佐野市観光協会(佐野市観光物産会館内) 電話 0283-21-5111
http://www.sano-kankokk.jp/
いもフライの会事務局(早川食品株式会社内) 電話 0283-22-0905 - 価格
- いもフライ1串50円~100円
- 佐野市へのACCESS
- 電車:JR東北新幹線小山駅からJR両毛線で約30分、佐野駅下車。
または東武伊勢崎線館林駅から東武佐野線で約20分、佐野駅下車
車:東北自動車道佐野藤岡ICから国道50号、県道9号などで約5km